中山七里氏の「どこかでベートーヴェン」

   今は梅雨の真っ最中で、時々、地面に穴があきそうな土砂降りの雨になる事があります。まさにそのような時に、「どこかでベートーヴェン」を読むと、物語の中に自然に入っていける気がします。この小説の事件は大雨で土砂くずれが起こった時のものでした。中山七里氏の音楽ミステリーの中で冴えた推理で活躍するピアニスト、岬洋介の高校生の頃の話です。ここでも岬の推理で犯人が判ることになります。クラスメイトの「僕」の一人称で物語が語られています。最後の1行にちょっとした驚きがあります。

   

   同じ作者の異なる複数の小説に同じ登場人物を出現させることがありますが、中山七里氏の場合、古手川刑事だったり岬洋介だったり、岬洋介の父の岬検事だったりします。ミステリーでは、得てして恐い場面やグロテスクな場面が存在しますが、怖がりでも読んでいられるのは、こうしたお馴染みの顔ぶれが登場するからかもしれないと思います。ちなみに「どこかでベートーヴェン」は同じ作者の他の作品に比べたら怖くはありません。

 

   「どこかでベートーヴェン」の中でも氏の他の音楽ミステリーの中でも、演奏される曲の様子がとても細かく描かれています。まるでこの時間に演奏を聴いているかのように。音楽なのによくここまで言葉で表現できるのだなと驚きます。

 

   また新しい音楽ミステリーが出版されたら是非読んでみたいと思います。